桜設計集団一級建築士事務所

1.つくる

 世の中にはたくさんのものづくりがありますが、建築はつくった「空間」の中に人が入ることのできる数少ないものづくりのひとつです。だからこそ、普段から中に入ったときの素材感や居心地の良さにこだわったものづくりを心がけています。そのために、日本中を旅して、ちょっといい素材を探してまわります。その中から、「これはたくさんの人に知ってほしい」と思う素材を選び、建物をつくることにしています。そのいくつかを6m×6mの小さな建築、“八ヶ岳の秘密基地”に取り入れました。

素材をえらぶ

木材、しっくい、土、畳、鉄、ガラス……建物を何でつくるのかを考える際、使う素材はどんな人がつくり、どんな場所でつくられているのかを知った上で設計するように心がけています。日本には、大量生産品から一品生産までたくさんのものづくりがあります。その中でも、木材や土、石など自然の素材は、同じ商品名で売られていてもひとつひとつ表情や色合いが異なります。八ヶ岳の秘密基地では、木材は種類や形状によって適材適所に使い分け、見せる柱やはりの構造材は使う位置や向きを決める「番付」を行いました。しっくいや畳についても生産者とつながり、自分たちの目で確かめた素材を選んでいます。

空間をつくる

建物のなかで過ごすとき、視覚で空間を認識するほか、素材に手や足が触れる、木材の香りを感じるなど五感(触覚、嗅覚、視覚、味覚、聴覚)を使います。そのため、料理をする、寛ぐ、睡眠をとるなど空間をどう使うか、何をして過ごすのかはもちろん、選んだ素材で心地よいと感じる空間をつくることを大切にしています。秘密基地でも、しっくいの壁に囲まれる空間やスギ・ヒノキ・アカマツ・ヒバなどの手触りを楽しめるよう使い分けるなど、長い時間過ごしたいと思う空間づくりを心がけました。

場をつくる

秘密基地をつくる過程では、人と人、人とものが新しく出会う場をつくるようにしました。例えば、建物の骨組となる柱やはりを組み立てる建て方は、地元・長野の大工さんといつも一緒に仕事をする東京の大工さんとのチームをつくり行いました。他にも、地元の建具屋さんが製作した引き戸の扉に、京都の漆職人さんが漆のアート作品を施すことや、九州・大分で生産されている七島藺(しちとうい)を畳表にし、長野の製作所でヒノキチップの畳床をつかって畳をつくることにも挑戦しています。基地をつくることをきっかけに次の仕事へ、次の建物へと繋がる場を大切にしました。